スポーツでは、試合時間が常に決まっているとは限らない。学生スポーツとなれば尚更だ。デーゲームもあればナイターの時もある。場合によっては朝イチから試合という時もあるだろう。
そのような時にどのように睡眠をとってパフォーマンスのピークを試合に合わせるのか。これは試合で活躍するために非常に重要な要素となってくる。
今回は、試合時間に合わせてパフォーマンスを高める睡眠法を紹介していこう。講師はアスリートスリープコーチの矢野達人氏だ。
クロノタイプを知る
ポイント:自分が朝型か夜型かを理解して、試合へ向けた調整を行う
クロノタイプとは遺伝子レベルで決まっている「朝型か夜型か」というもの。これはミュンヘンクロノタイプ質問紙を使って誰でも簡単にどちらなのかを知ることができる。
さて、自分が朝型か夜型かという自覚がある方は多くいるのではないだろうか。近年様々な診断ツールが存在しており、クロノタイプには朝型・夜型以外にも中間型などがあると言われるが、本来は朝型か夜型の2つしかない。
実は最も多いと言われているのは中間型だが、基本的には夜型と考えられている。これは、夜型の人が社会のリズムに合わせて生活を送ることで、そちらに同調させていかなければならないことが原因となっている。
放っておくと、8時9時からの学校や仕事のリズムに自分の体がついていけないため、目覚まし時計を使って早い時間に起き、そのリズムで生活していくことに順応させていった結果が「中間型」と言われている。繰り返すが、遺伝子レベルでは「朝型か夜型か」のどちらかしかない。
では、スポーツにおいては「朝型か夜型か」でそれぞれどのような特徴があるのだろうか。
まず、朝型の人は午前中に特にパフォーマンスが高くなり、夜は落ちる。そのため、夜の試合であれば、パワーナップ(計画的な仮眠)を取る必要がある。
一方で、夜型の人は、早い時間の試合に弱く、18〜19時が最もパフォーマンスが高くなる。試合時間がそのタイミングであれば問題がないが、デーゲームには支障が出やすいため、その時間帯にパフォーマンスを高く保つためにも、決まった時間に起き、規則正しく体内時計を整えることが必要だ。また、試合時間が眠気がくるタイミングであれば、朝型同様パワーナップを取った方が効果的になる。
クロノタイプの考え方は世界基準で用いられているが、日本国内ではそこまで徹底して取り組んでいる選手やチームは少ないとアスリートスリープコーチの矢野達人氏は考える
サーカディアンリズムを調整する
ポイント:「睡眠日誌」を作成して、1ヶ月間睡眠とパフォーマンスの相関関係を測る
続いてパフォーマンスを高める要素として、「サーカディアンリズム」が大切になる。これは体内時計を整えること。最もパフォーマンスが高くなるのは、「深部体温」と呼ばれる脳や内臓の温度が最も高い時と言われている。
一般的には、17時から19時の間にピークを迎えることが多いが、一方で14時から16時の間は生理的な現象として眠気が出やすい。人間の体はこういったリズムを刻んでいるため、先ほどの朝型か夜型かも含めて、試合時間が決まっているのであれば、試合の1週間くらい前からそこに向けた微調整をしていく。一流の選手はこの辺りにもストイックに取り組んでいるという。
しかし、体内時計というのは一気にずらすことのできるものではない。1日に1時間ずつしか変化させることができないのだ。早めることはもちろんのこと、遅れてずれるのも1日1時間ずつとなっている。もし、自分が眠たくなるという時間に試合が重なってしまったら、それをズラすために起床時間を早める生活をしてみることが大切になってくる。
ただ、これを感覚的になってしまうと、逆にパフォーマンス低下に繋がってしまうリスクもあるため、「睡眠日誌」を作ることを矢野氏は薦めている。
睡眠日誌には、自分の睡眠リズムと日中のパフォーマンスを記す。「前日の睡眠がこうだったから、今日のパフォーマンスはこうだった」という答え合わせを1ヶ月以上は続けて、パターンを掴むことが大切だ。
世界レベルのアスリートやオリンピック出場選手たちは、このような体内時計の調整をよく行なっている。特に国際試合となると海外で試合を行うことになるが、その場合時差が問題になるのだ。
時差ボケを現地の時間に調整していくことも体内時計を整えることの一つ。前日に現地入りしてしまうと1日最大1時間しか調整できないため、時差が1時間以上ある場所での試合には間に合わなくなる。海外での試合においては、1週間前から現地入りし、体を合わせていくことが大切だが、日本国内においても同じように試合時間に合わせて微調整することが必要となる。
パワーナップを計画的に取る
ポイント:時間を決めて計画的に仮眠をとる
先ほど出てきたパワーナップ(計画的な仮眠)だが、注意点は60分以下に抑えること。それ以上になると脳の温度が低下するため、その後のパフォーマンスは低下してしまうのだ。ではどれくらい取るのが理想的なのか。推奨されているのは15〜20分前後だという。それに加えて、首の角度や温度・湿度も考慮する必要がある。
体内時計を上手くコントロールする時に、起きる時間と寝る時間を大きくズラすと不調に繋がるリスクが高まる。ただ、ハードスケジュールでそこまで徹底的に管理するのが難しいという場合は、パワーナップを利用して午後のパフォーマンスが落ちないようにすることが大切である。
睡眠のことや自分の体のことをしっかりと理解していないと、このようなリカバリー法は逆効果になってしまう。そのため、ストイックに取り組む覚悟を決め、毎朝決まった時間に起きるというところから徹底的に管理し、1ヶ月以上取り組んだ上でこのようなマネジメント法に取り組むべきであると矢野氏は言う。
試合の日とオフの日の睡眠リカバリー法は異なるのか
ポイント:睡眠のリズムを一定にして、特別なことをしない。
最後に「試合の日とオフの日の睡眠リカバリー法は異なるのか」について。大原則として、試合の日も休みの日もリズムを一定に保つことが大切だ。
ただ、試合日や翌日は疲労が溜まってしまうため、特別なリカバリーをしたくなる場合もある。
これに関して、体のリフレッシュのための特別な何かを受けることは問題ないが、睡眠覚醒のリズムを変えてしまうことはよくない。試合に向けた調整に時間がかかり、逆効果になってしまうのだ。休みの日、試合の日、練習の日の全てにおいて一定に保つことが必要となる。
睡眠のリズムを整えた上で、練習量を落としたり別メニューをしたりして調整していくのが正しいリカバリー法と言えるだろう。
矢野氏には「試合後に興奮して眠れない」という選手からの相談もよく届くそうだが、これも快眠ルーティーンを普段から試していき、自分のパターンに落とし込むことで、日常的にオフ日でも試合の日でも興奮状態であったとしても体・脳がリラックスに向かっていきやすくする工夫をするとしっかり休むことができる。
まとめ
結論として、特別なことをするのではなく、「いかに特別なことをしないか」を重要視することが大切である。睡眠は全人物が行うことだが、1人1人正解が異なるため、情報を「ヒントに」自分の正解を導いていくことが大切となってくる。