前回の「睡眠の基礎知識Part1」では、質の良い睡眠をとるために欠かせない『行動』について見てきたが、今回は寝具や寝室、寝装品といった『環境』について紹介していこう。教えていただくのは、アスリートスリープコーチの矢野達人氏だ。
寝具に関して
それでは寝具に関して見ていこう。
マットレス
まずはマットレスについて。マットレスと言っても、ウレタン式のものやコイルスプリング式のものなど様々な素材がある。
それ故、「何を選んだら良いのだろうか」と悩む人も多いのではないだろうか。もちろん体格に合わせて選ぶことが大切ではあるが、体が大きい人が柔らかい素材を選んでしまうと、腰やお尻あたりが重たくなり、体が”くの字”になってしまう。矢野氏曰く、体が大きい選手はなるべく硬めのものを選んだ方が良いという。
矢野氏によるとマットレスを選ぶ際は、「横向き寝をした時に、立っている姿勢をそのまま真横にした状態できるかどうか」というのが一つの基準だという。ただ、これは、立っている姿をそのまま真横にした状態で寝ることが良いという訳ではなく、あくまでもマットレス選びの基準として伝えている。
『基本的に利き腕を上にして横向きで寝入る』。寝入りばなはこれを意識すると良い。様々な理由があるが、利き腕を上にするということは、人間の防衛本能、心理的安全性を確保することと一致し、脳が安心してリラックスすると言われている。この利き腕を上にして横向きに寝た時に、負担が大きいか少ないかを見て、自分に合った寝具をチェックしていく。
横向きに寝た時に肩が圧迫されるのであれば、肩が沈み込むものを、一方で柔らかすぎて体が真っ直ぐ保てていなければ、部分的にハードになっているものを選ぶべきだ。
枕
選んだマットレスによって枕の高さが変わる。もし自分にピッタリのマットレスを使用している場合は、枕を使わなくても良い姿勢を保てる。
しかし、自分に完全にフィットする形や素材のマットレスを見つけることは難しいため、それを補填するために使うのが枕の役割だ。例えば、肩が圧迫された状態になっているのであれば、枕で高さを作った方が肩が楽になる。
仰向けになった時に関しては、「身体が一直線になっているのか」「枕によってつく角度が5〜10度の傾斜になっているか」が基準。
高い枕を使っていると20〜25度になる可能性もあるが、そうすると気道が詰まって酸素を取り入れにくくなったり、頚椎への負担がかかりすぎたりするという危険性もある。
掛け布団
土台となるマットレスや枕を自分に合わせた上で、次に重要となってくるのは掛け布団。掛け布団は、冬の寒い時期であれば重たいものを選び、熱を逃さないようにしようと考えてしまう人が多いが、それは正解とは言えない。
人間は寝ている時にコップ1杯分の汗をかくと言われるが、蒸発して出ていった水分を吸ってくれて、かつ熱がこもらず吐き出していくような掛け布団を選ぶ必要がある。「吸水性」と「放出性」がしっかり取れているかが重要だ。
また、掛け布団が重すぎると寝返りを打つときに影響が出てしまう。寝返りの際に踏ん張ってしまうと脳の覚醒のリスクが高まる。
このような観点からみると、軽い素材である「羽毛布団」が良いと推奨されている。
服装
マットレスを自分に合わせ、掛け布団を軽い素材のものにした。次に必要なのがパジャマの機能性だ。
例えば冬場の話で言うと、寒いからと言って熱を逃さない素材はあまりよくない。外を歩く際には熱を籠らせるという意味で非常に機能性が高いが、寝ている時はいかに脳や内臓の温度を下げるかが質の良い睡眠を取るポイントとなっている。熱を逃さない素材は逆効果だ。
そして多くの人が間違っている可能性があるのが、家に帰ってきてリラックスするために着る部屋着とパジャマを一緒にしてしまっていること。
部屋着はリラックスできる素材が多いが、パジャマはそうではなく、汗の吸水性や放出性に長けているものだったり、なるべく薄手のもの、体の動きを制限しないものを選ぶと良い。部屋着とパジャマは違うという意識をするべきだという。
寝室環境
意外と意識できていないのが「室温」や「湿度」。「汗をかく」というのは非常に大事なポイントだが、湿度のコントロールが重要になってくる。湿度が高いと汗をかくことができず、乾燥していると口が乾いて夜中に目が覚めてしまったり、風邪をひいてしまったりするというリスクがある。
乾燥も湿度が高すぎることもよくない。目安として湿度は50%前後でコントロールすること。一方で室温は16〜18℃が人間の体にとって理想だという報告もある。ただ、冬場はその室温に合わせることが可能だが、夏場は強烈なエアコンをかけることが必要になってくるため、夏場は26℃程度になるようにコントロールする。
枕元の電子機器
最後に、『枕元に電子機器を置かない』という意識を持つ必要がある。電磁波による睡眠への悪影響は非常に大きなもの。
特に気をつける必要があるのは、スマートフォンを「充電しながら」枕元に置いて寝ること。電話を枕元に置くこと自体は大きな影響はないが、充電しながら寝るだけで人体に影響を及ぼすレベルの電磁波を放つという。
もし充電が必要な場合は、手を伸ばせば取れる距離である60cm離すことで人体への影響を抑えられると言われている。寝るときは充電をしない、もしくは充電するのであれば60cm以上離すことを意識する必要がある。
まとめ
ここまで2回のパートに分けて睡眠の基礎知識について紹介してきた。今回の内容は、スポーツ選手はもちろんのこと、一般人にも大きく役に立つであろう知識だ。矢野氏からさらに睡眠の知識を得たいという方は、以下の記事も合わせてご覧いただきたい。