サッカーのみならずどのスポーツでも必要なトレーニング。筋トレに励んだり長距離走に励んだりとトレーニング方法は様々だ。
しかし、パフォーマンスを最大限に発揮するには、トレーニングだけでは足りない。同じくらい大切なのが『睡眠』だ。
今回の記事では、アスリートスリープコーチの矢野達人氏による睡眠の基本となる知識を紹介していこう。
目次
睡眠を取らなければならない理由
最初に、そもそもなぜ睡眠を取る必要があるのか。矢野氏によると、大きく分けると4つの理由があるという。
①脳を休ませる
②記憶の定着
③成長ホルモンの分泌
④グリンパティックシステム
それぞれ順番に解説していこう。
脳を休ませる
体を休めることは、寝ていなくても体を横にしていたり、リラクゼーションを受けることである程度回復すると言われている。
しかし、実際に体を動かす指示を出しているのは脳であり、その脳の疲労を取り除くのは睡眠しか方法がないのだ。
記憶の定着
記憶を整理していらないものを捨て、必要な記憶を定着させる。これらが睡眠中に行われるというのは有名な話。特に、技能記憶と呼ばれる体で覚える能力は、その日の内に定着させることは難しい。自転車に乗る能力や字を書く能力、サッカーでいえば、リフティングやドリブルの能力は、寝ている間に定着させることができる。
技能記憶に関しては以下の記事をご覧ください。
成長ホルモンの分泌
成長ホルモンは、子どもの成長・発育・発達に影響するのはもちろんのこと、大人でも傷んだ体を回復・修復する働きもある。
成長ホルモンは運動した時も分泌されると言われるが、睡眠中に分泌される成長ホルモンの量の方が起きている時と比べて数倍多い。しっかりトレーニングを行い、全力で試合に臨み、そしてしっかりと休むことで修復していく。
グリンパティックシステム
『グリンパティックシステム』という単語を耳にしたことがある人は少ないのではないだろうか。
脳というのは老廃物が溜まっていく場所でもある。それを除去せずに放っておくと、脳がパンパンになり認知症が発症しやすくなる。
脳では、「脳脊髄液」という体液が老廃物を除去するという作業が行われているのだが、これを「グリンパティックシステム」という。起きている時も働いてはいるものの、睡眠中にこの効率が非常に高くなる。これにより、認知症予防にも繋がる。
質の良い睡眠を取るために欠かせないこと
質の良い睡眠を取ると上記のような働きが生まれるのだが、その「質の良い睡眠」を取るために最も欠かせないことがある。
それは「サーカディアンリズム」だ。
サーカディアンリズムとは、体内時計を整えることであり、日本語では「概日リズム」と言われる。
1日のリズムは、24時間よりも少し長くなっているのだが、その体内時計をいかにして一定に保ち、24時間周期で刻むかが良い睡眠を取るポイントとなる。
サーカディアンリズムを整えるために必要なこと
サーカディアンリズムが必要であることは間違いないが、では、それを整えるためには何を行なえば良いのか。
①毎朝決まった時間に起きる
②朝起きてから日光を浴びる
③栄養バランスの取れた朝食を食べる
④日中合計4時間以上日光を浴びる
⑤パワーナップを計画的にとる
⑥日没後は明るい光を避ける
⑦快眠ルーティンを作る
毎朝決まった時間に起きる
平日のみならず、休日も決まった時間に起きることが大切だ。「学校や仕事、試合がある日は朝早く起きるが、何もない日は昼まで寝ている」という状況になると、体内時計は少しずつ狂ってくる。
生活リズムが悪くなると、本来分泌されるものがされなくなったり、体が思うように動かせないといったパフォーマンスの低下にも繋がってしまう。体内時計を整えるにあたって、まず最初に実行するべきことは「起きる時間を決める」ことだ。
朝起きてから日光を浴びる
朝起きてから日光=強い光を浴びることは非常に大切なこと。先ほど体内時計が1日24時間よりも少し長いと記述したが、これを整える作用があるのが、目の奥の「視交叉上核(シコウサジョウカク)」にある”スイッチ”。
そのスイッチは強い光=日光を浴びることで押すことができる。具体的には、2500lx(ルクス)以上の光を目から入れる必要があると言われているが、朝起きてカーテンを開けずに部屋の電気をつけて生活している場合、その数値には届かない。
逆に、カーテンを開けて外を眺めるだけで、7000〜8000lxに届く。曇りの時でも、窓を開けて外を眺めれば、10000lxほどを摂取することができる。
栄養バランスの取れた朝食を食べる
体内時計は「親時計」とも呼ばれており、内臓にも周期・リズムを刻んでいる。体の全時計を整えるには、朝食を食べることも大切だ。それにより、内臓が働き出し、全てが始まっていく。
また、メラトニンという眠りのホルモンがあるが、これは栄養から作られる。朝食をとってエネルギーを摂取し、午後もしっかり活動すると、夜のメラトニンが作られ、深い睡眠を取ることが可能になるのだ。
メラトニンを作るために必要な栄養素は「トリプトファン」であるが、それだけを摂るのではなく、栄養バランスを考えて食べることが、メラトニンを作るために必要な酵素の働きを補助する。
トリプトファンを多く含む食品としては、「大豆製品」がある。吸収率も高いため、朝に摂取すると良いという。また、サラダやご飯も一緒に摂ることができればさらにバランスが良くなる。
日中合計4時間以上日光を浴びる
先ほど「朝起きたら2500lx以上の光を浴びる」という項目があったが、それは体内時計を整えるためのもの。
日中の日光というのは、メラトニンという眠りのホルモンの原料になる「セロトニン」の合成を盛んにしてくれる役割を持っている。
朝浴びるだけでなく、なるべく長い時間日光を浴びることを意識することで、夜の良い睡眠に繋げることができる。
パワーナップを計画的にとる
パワーナップを計画的にとることも体内時計を整えるために必要な要素だ。
パワーナップとは?それは「短めの昼寝」のこと。
「短め」がキーワードとなっており、長い時間とってしまうと脳の温度が下がってしまい、午後のパフォーマンスの低下に繋がる。
12時から3時の間、15分から20分ほど睡眠をとることができれば、午後のパフォーマンスが上がるだけでなく、夜の睡眠にも影響が出にくくなる。
パワーナップのコツとしては、頭を壁やテーブル、もしくは枕などで固定させることが大切だ。頭を宙に浮かすと狙いたい脳波のレベルに届かないということもある。
日没後は明るい光を避ける
夕方以降はメラトニンの分泌を妨げないために明るい光を避ける必要がある。メラトニンの分泌に影響が出ないのは150lx以下と言われているが、その照度に近づけるには、室内を白っぽい色の電気を避け、暖色系にすると良いという。
ただ、スーパーやコンビニなどどうしても光の強い場所へいく必要がある場合は、帽子やサングラスを着用し、強い光が目に入らないようにすることが大切だ。
快眠ルーティンを作る
最後は、夜ぐっすり眠るためのルーティンを作ること。「お風呂に入る」「ストレッチをする」「アロマを焚く」「呼吸瞑想という手法を用いた腹式呼吸を行う」などのルーティンを寝る90分前から毎日行うことで、脳が「睡眠に向かうんだ」と記憶する。
試合で神経が昂っている日でも、ルーティンを行うことでリラックスモードに切り替えやすくない、安定した快眠を得ることができるようになる。
まとめ
以上がパフォーマンスを最大限に発揮するための睡眠方法だ。日常から意識することによって徐々に規則化していくため、続けていくことが必要となってくる。