人間が生きていく上で最も大切な項目の一つである『睡眠』。睡眠はスポーツ選手のパフォーマンスにも影響しているとアスリートスリープコーチの矢野達人氏はいう。

今回は、睡眠とスポーツにおけるパフォーマンスの関係性について紹介していこう。

睡眠と技能記憶

サッカー

スポーツにおいて筋肉は欠かせないもの。スポーツ選手は、本番で最高のパフォーマンスを発揮するために日々トレーニングに励む。

スポーツをやっている、もしくはやっていた人であればご存知だろうが、トレーニングで疲労した筋肉は休息中に回復し、強度が増す(超回復)。つまり、スポーツでフィジカルを向上させるためには、トレーニングのみならず休息の取り方も大切になってくるのだ。

さらに休息が必要になるのは、フィジカル向上だけではない。「技能記憶」という体で覚える記憶も、その日の睡眠中に脳に定着する。

例えば、子ども達は、字を綺麗に書く練習をしたり、自転車に乗る練習をしたりする。しかし、それらのスキルをその日のうちに定着させるということは非常に難しいと矢野氏は言う。定着させるには睡眠が必要になるのだ。

脳科学的にも、「その日練習したことは睡眠中に体が記憶して、次の日にもう一度行うと練習の成果が出る」という事実が解明されている。

スポーツでも同じで、例えばサッカーであればリフティングやドリブル、トラップなどの練習に取り組むが、それら一つ一つのスキルは睡眠をとることで体が覚え、前日できなかったことができるようになるというメカニズムだ。

学生アスリートが陥りやすい罠

学生アスリートでは、夜遅くまで練習したり、早く起きて朝練に向かうということがよく見られる。しっかりとした睡眠時間が取れていれば全く問題はないが、努力のために睡眠時間を蔑ろにすると、努力と能力の向上が伴わないという状況にもなり得る。

「8時間以上寝る子ども」と「6時間以下しか寝ない子ども」をグループ分けした際、技能記憶で大きな差が出たという研究結果もある。矢野氏いわく、6時間の睡眠時間は、子どものみならず大人でも非常に短いため、7時間半を目安に取るのが良いという。

睡眠不足がもたらす悪影響

睡眠不足になると脳の「前頭前野」という部分の働きが低下する。前頭前野とは、「集中力」「思考力」「決断力」「判断力」「コミュニケーション力」を司っている部分のこと。

集中力の低下


睡眠不足に陥ると、まず集中力を持続できなくなるのだが、そうなった場合、ミスが増えたり怪我のリスクが高まったりする。また、8時間以上睡眠をとっている人と6時間以下しか睡眠をとっていない人では、怪我のリスクが1.7倍になってしまうという報告もされている。

思考力の低下


次にサッカーにおいて、思考力が低下すると、サッカーIQが育たない。どの崩し方が最適なのか、どのポジショニングが失点を防ぐ上で一番良いのか。思考力は、ピッチ上においては判断力とも言えるだろう。

考えることはFW、MF、DF、GKのどのポジションにおいても重要な要素であるため、睡眠が必要になる。

決断力・判断力の低下


その他には、決断力の低下は、リーダーシップに影響し、判断力の低下は試合の勝敗に直結する。DFであれば、一瞬のクリアの判断ミスで失点に繋がる可能性があり、FWであれば、抜け出しや相手DFを剥がすような一瞬で判断する必要がある場面で動けなかったりする可能性がある。

コミュニケーション力の低下


意外な部分でいうとコミュニケーション力だ。組織が成功するための理論として、「成功循環モデル」というものがある。

良い関係性→良い思考→良い行動→良い結果→良い関係性…


組織で最初に必要な要素は「良い関係性」であり、そこが上手くいかないとこの循環は回っていかない。

コミュニケーションを上手く取るという意味で大きく影響が出る睡眠不足。これは、チームワークにも影響を及ぼす。チームが一つになっていないと感じたら、睡眠が上手く取れていない選手が混ざっている可能性があるという考え方もできる。

モチベーションの低下


睡眠はモチベーションにも直結する。何事においても、意欲が薄れると良い結果は生まれない。練習への意欲が低下してしまうと、競技のパフォーマンスも低下することは当然のことだ。

モチベーションの低下は、ミスを引きずったりすることで起こるが、これも睡眠不足が原因の一つになっている場合がある。

一般的に、寝入りバナの約3時間以内に見られる深い睡眠が大切だと言われる。その3時間では、成長ホルモンの分泌や脳の老廃物除去はもちろんのこと、嫌な記憶の消去も行われる。嫌な記憶とは、ミスもその一つであり、睡眠が足りていないと引きずってしまう=メンタルが弱い選手になってしまうのだ。

メンタルが弱くなると良い睡眠も取りづらくなるという悪循環に陥ってしまう。睡眠から着手して、嫌な記憶・ミスを引きずらない「強いメンタル」を作り出すことが大切だ。

まとめ


今回は、スポーツにおけるパフォーマンスに与える睡眠の影響について紹介してきた。選手として成長するためには、トレーニングだけでなく睡眠も大切な要素の一つである。また、今回の話はスポーツ選手のみならず社会人にも通ずるところがあるため、一度睡眠を見直してみてはいかがだろうか。

矢野達人

矢野達人氏

アスリートスリープコーチ

睡眠サロンや睡眠クリニック、睡眠旅館などを運営、寝具の製造販売や睡眠セミナーなど、睡眠に関わるあらゆることに取り組んできた睡眠のプロ。サロンでは約2万人の睡眠をサポートしてきた。様々な企業でも睡眠セミナーを実施してきた。2022年2月からニックリトルヘイルズ氏と正式に契約し、アスリートに向けた睡眠指導も本格化。「日本人の睡眠の価値観を変える」というミッションを掲げて活動中。

一般社団法人オルソスリープアカデミー代表理事

【主な実績】 UDN SPORTS 睡眠専任講師 ドクターストレッチ 睡眠専任講師 相生学院サッカー部 スリープコーチ 車いすバスケ日本代表選手スリープコーチング プロキックボクサー スリープコーチング

【企業向けセミナー実績】 ◆あずさ監査法人にて健康経営睡眠セミナー ◆野村証券にて健康経営睡眠セミナー ◆メットライフ生命にて世界の睡眠セミナー ◆ジーライオングループにて睡眠ウェビナー