一流のサッカー選手は、ボールを持っていない時やパスを受ける寸前でも、首を振りながら状況を把握する。ギア・ジョーデット氏は1997年にスキャンの勉強を始め、それ以来、250人以上のプロ選手と200人の有望なユース選手を撮影して分析してきた。

同氏はサッカーでの首振りによる状況把握に関する10の科学出版物、さらに25の未発表の学生論文/論文を作成し、数百人のプレーヤーやコーチと結果について話し合った。結論としては、一流プレーヤーであればあるほど試合全体を見て状況を把握し、一般プレーヤーはよりボールウォッチャーになるという。

プレーヤーは、一瞬顔(目)をボールから遠ざけるときに全体の状況を把握し、パスが来た時に備える。首を多く振ることによって、より高いパス成功率とより創造性豊かなパスに繋がる。

首振りの恩恵は全ポジションの選手が少なからず受けるが、一部のポジションは他のポジションよりも本能的に首振りを行う。そのポジションとはミッドフィルダーだ。

トッププレーヤーは、特に首振りによる状況把握能力に長けている。過去20年以上にわたって撮影したすべてのプレーヤーの中で、現バルセロナ監督であるシャビ・エルナンデスは1試合あたりの首振りによる状況把握の平均頻度が最も高い(ボールを受け取る前の最後の10秒間で測定)。1秒あたり0.83回だ。

ある日シャビは、インタビューの場にて「部屋に入った時、椅子やテーブルの置き方を分析しました。私はいつも部屋全体が見えるところに座りたいです。これは本能的に行なっているため、いつもしてしまいます」と語った。

スキャンは守備においても重要だ。クロスからペナルティーエリアを守るプレミアリーグのディフェンダーは、2部リーグやアカデミーのディフェンダーよりもあらゆる状況に柔軟に対応できる体勢をキープしており、首振りの頻度が高いことも分かっている。

首振りはタイミングもミソとなる。トッププレーヤーは、チームメイトのボールタッチの合間に行う。ボールに触れると方向・ペースが変わるため、ボールを見るが、タッチの合間(またはパスによってボールが転がっている時)は、ボールへの物理的な変化はないため、その間に状況把握を行うのだ。

サッカーの試合は目まぐるしく変動し、同じ状況がないため、目の限界まで首振りを行う。ギア・ジョーデット氏の視線追跡研究は、一流プレーヤーの首振りが速く(90%が0.7秒未満)、めったに目を固定させないことを明らかにしている(3%未満)。

首振りだけでは十分ではない。そこから試合に活かすには、プレイヤーは実際に情報を拾い上げて行動に移す必要がある。

ただこの能力はトレーニングで鍛えることができる。

早めにトレーニングを始めて、首振りの習慣をつけることが好ましい。例えば車が行き来する道路を横断する前に右・左を見るよう子供たちに指示するのと同じように、サッカー場でボールを受け取る前に首振りを行うよう教えることができる。多くの一流プレイヤーは非常に若い年齢でこのトレーニングを行なった。

プロで状況把握能力を向上させるには、プレーヤーがゲーム固有の情報を取得する必要があるゲームベースの練習が不可欠になってくる。

また、テクノロジーを利用することも一つの手である。バーチャルの世界でゲーム固有の情報を認識し、意思決定を実行できる。

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