日本屈指の大都会である大阪市。多くの人が住み、多くの人が仕事や娯楽などで行き交う都市だ。
そんな大阪市の中心に位置するのが名前の通り「中央区」。心斎橋や日本橋、道頓堀、大阪城といった大阪を象徴する名所が含まれる。
中央区は大都市の中央であり、仕事や娯楽でごった返しているというイメージを持たれるかもしれないが、実はそんな中央区にサッカークラブがあることはご存知だろうか。
その名も「OsakaCitySC」。現在大阪府2部リーグに所属しており、Jリーグを目指すクラブの一つだ。
クラブの代表である山地氏曰く、都会過ぎて運動する場所がないというが、それでもかつて訪れたロンドンのサッカーの熱狂を日本にも作るべく、「ロンドンと似ている」という理由で大阪市中央区を選んだ。
そして、2022年末にはオーストラリア・シドニーFCのアカデミーで6年以上GKコーチを担当した伊藤氏を監督に迎え、徐々にチームとしての形を固めている段階だ。
今回は、代表の山地氏と監督の伊藤氏に話を伺った。現在トライアウト参加の募集も行っているので要チェックだ。
━━━まずは山地さんから自己紹介をお願いします。
山地泰平氏(以下、山地):
株式会社OsakaCitySCの代表取締役をしております山地泰平です。大学在学中に高校サッカー部の外部コーチを経験し、その後このOsakaCitySCを作って3年経つというところです。
━━━続いて伊藤さんよろしくお願いします。
伊藤瑞希氏(以下、伊藤):
伊藤瑞希です。現在はOsakaCitySCの監督を務めています。子どもの頃からサッカーはしていたのですが、中学生の時に教員になってサッカーの指導をしようと決め、大学生の時にプロコーチになる覚悟を決めて大学院へ進学しました。そこからアルビレックス新潟シンガポールというクラブで2年間働かせてもらったり、帰国後に大学院を修了してワーキングホリデーでオーストラリアに渡り、合計6年半の滞在で6シーズンをシドニーFCのアカデミーGKコーチ等を担当したりしました。
━━━OsakaCitySCを設立しようとしたきっかけはなんですか?
山地:
ロンドンに行ったときに現地のプロクラブや街の熱狂を見て、僕が人生をかけて作るものはこれだと思ったのがきっかけです。
その後場所探しから始めるのですが、東京や福岡、地元の京都などもあたりました。ただロンドンと雰囲気が似ているのが大阪市中央区だったので、ここにクラブを作ろうと決めました。
━━━ロンドンと大阪市中央区はどのようなところが似ていると感じたのですか?
山地:
大阪市中央区は路上で生活を送る貧しい方も多いのですが、御堂筋に出てみると有名ブランドが並ぶ綺麗な街に見えます。このように光の部分と闇の部分があるというのがロンドンと似ており、ここに作ればイギリス並みの熱狂を生み出せるのではないかと思いました。
━━━ここまで3年やってこられて、中央区の盛り上がりはどう感じられていますか?
山地:
ようやく中央区の方には少しずつ浸透してきており、先日行われた遠い試合でも応援に来ていただいたりしています。現在大阪府2部のアマチュアクラブですが、徐々に広がってきていると思います。ただ、まだまだやることはたくさんあります。
━━━先日行われた試合には何人来られたのですか?
伊藤:
大阪市から片道1時間半くらいかかる和泉で行われたのですが、3人に来ていただきました。これをたった3人ととるのか、大阪府2部の誰も知らないようなクラブにわざわざ往復3時間強かけて3人も来ていただいたととるのか。僕は素晴らしいことだと思いますし、とても感謝しています。
━━━ここまで2ヶ月弱という短い期間の中で、監督としての手ごたえはいかがですか?
伊藤:
手ごたえに関して、個人としては「あります」。ただ、手ごたえがあるかないかをより感じているのは選手側かもしれません。
選手に関しては95%が去年からやっている人たちです。僕が選んで獲得してきた選手は1人いますが、現在戦っている天皇杯予選に登録上出場できないということもあり、今ピッチに立つ選手やベンチに入る選手は昨年からいるメンバーのみです。
選手や代表の山地さんの方が変化に気づいているのではないでしょうか。
━━━山地さんこの点についていかがでしょうか。
山地:
初期から応援してくれている方たちは、特に変化を感じているのではないでしょうか。実際ファンやサポーターからも「変わったね」と言ってもらえることもあります。
例えば選手の向き合い方や練習出席など試合以外の部分も変わっています。昨年度まで現場のスタッフがおらず、クラブのフロントが先走ってしまい、チーム内の統制が上手く取れていませんでした。このような状況から現在はサッカー面も充実しています。
当時選手も不満はあったと思います。クラブとして多方面に露出はするものの、サッカーをしている人が誰もいないというような状況もありました。
それでも今は、頑張っている人が評価してもらえるような環境になっています。
━━━今の現場の構成はどのような感じなのですか?
伊藤:
ほとんど僕が担当しています。本当はコーチングスタッフという呼び方をしたいのですが、僕が監督/アシスタントコーチ/GKコーチ/分析/フットボール・ディレクター/スカウトの全てを1人で担当しているような形です。
もちろんスカウトなどは山地さんにも手伝ってもらってますし、今10代のアナリスト候補のインターン生が加わろうとしています。彼はまだ中学生ですが、フットボール愛に溢れ、素晴らしい視点を持っているので、僕が刺激を受けています。
やる気や情熱、フットボール愛があり、「このクラブの力になりたい」「自分が成長したい」という人であれば誰でも大歓迎です。僕のアシスタントとして一緒に活動している方や、僕に無い専門性を持っている方には、いつでもドアを開いています。
また、現在心理の専門家とスプリントの専門家にも入ってもらったので、うちに来る選手にはフットボールだけでなく、キャリアとしても充実したサポートを受けられるような体制を整えようとしています。このクラブと共に、また、このクラブで成長していく選手やスタッフをいつも求めています。
━━━OsakaCitySCは代表者目線でどのようなクラブですか?
山地:
大阪府大阪市中央区を拠点としていますが、都会過ぎてスポーツ不毛の地です。僕たちも活動してみて、そもそも運動する場所がないと感じます。
それでもとても興味深い街で、国籍や経済面の度合いを問わず様々な人がいます。
ただ、今そこに住んでいる人たちは、共通の話題がないように感じます。そして犯罪率も高く、バラバラな地域となっています。クラブとしてはそれらを一つにするような存在になればと思います。
例えば、道を歩いていて、「OsakaCitySCのこの前の試合観た?」といった話題が生まれるようなクラブになりたいと思っています。
━━━現場目線ではどのようなクラブですか?
伊藤:
まず第一に選手たちとのミーティングなども含めて話しているのは、「クラブありき」ということ。そして「クラブありき」の前に「地域ありき」であることが大切です。
クラブ名に「OsakaCity」が含まれており、そして中央区に本拠地を構えていますが、これが大阪市中央区でなければOsakaCitySCというクラブも誕生していなかったですし、クラブを作った山地さんという人がいなければこのクラブは存在しませんでした。
そしてこれからどんどん数が増えていくであろうファン・サポーターの皆さま、クラブに関わって下さっているスポンサーの皆さまがいなければ、このクラブという存在自体が存続しません。
もちろんその逆もあり、選手がいなければフットボールクラブとして成立しません。実際この前行われた試合では相手チームが試合会場に誰も来ず、不戦勝で5-0となったのですが、このような状況は誰も望んでいません。
選手がピッチに来なければ、もしくは選手の数が足りなければ、クラブとして成り立ちません。
この部分は相互関係であるからこそ選手に求めているのは、地域やクラブ、支えてくれている方たちのためにパフォーマンスを発揮して、その人たちを熱狂させられるような試合にすること。僕は「Empty Energy(エネルギーを出し切ろう)」と表現しています。
もちろんどのJリーグクラブも素晴らしい監督やスタッフがいる中で、このような方向を目指していると思いますが、簡単なことではありません。
選手には、人にはそれぞれ”使命”があることも話しています。全ての人は、常に”命を使い続けています”。「闘う姿勢を見せる」だとか「エネルギーを全て出し尽くす」だとか中々人間は難しいことだと思います。それでもそのような姿勢を見せることが、試合を観に来ている方々や普段からサポートしていただいているスポンサーの方々の心を動かすと思います。
なので僕は選手に、”MOVE”というキーワードを伝えています。この言葉には、動かす以外にも感動させるという意味があります。だから、「ボールを動かそう。人も動こう。それを通じて人の心を動かせるようなフットボールをしよう。これを積み重ねていけば、ファン・サポーターの方々が増える、スポンサーが増える、地域が応援してくれる」と伝えています。
━━━選手の皆さんもそこに共感しておられるのですか?
伊藤:
僕は監督になってからまだ2ヶ月弱ですが、2週間のオフを挟んでいるのでトレーニングをしているのは実質3〜4週間。正直最初は選手からの反発が多くありました。
去年は、「練習に行かなくても試合に出られたメンバー」と「練習に行っていたけど試合に出られなかったメンバー」、大きく分けてこの二つの層がありました。
正直、練習に行っていたけど試合に出られなかったメンバーは僕が入ってハッピーだと思います。なぜなら正当に評価してもらえるから。
一方で練習に行かなくても試合に出られたメンバーにとっては、僕のような人が入ると気に食わないわけです。僕は練習に参加するということを課し、そのパフォーマンスや態度を見て決めていくという方針にしたので。
でも山地さんを中心にこのクラブがJリーグを目指すというのは決めていますし、そのクラブの指針とビジョンがあるのであれば僕はそれに沿うだけです。
現在はこのような考えに共感できる人が残っていると思いますし、今も全国各地から入りたいという連絡があります。これから入る選手もこの考えに共感してくれる選手だと信じています。
━━━クラブとしての今後の目標を教えていただけますか?
山地:
クラブとしてはJリーグに昇格することがまず大きな目標です。事業面でいえば、中々難しいかもしれませんが、Jリーグトップの売上を作りたいと思っています。そのためにやることはたくさんあるのですが、少しずつ整理していきながら今できることをしっかり吟味して、地に足をつけながら経営をしていきたいと思っています。
━━━大阪市中央区に対して社会貢献をしたいという考えはありますか?
山地:
もちろんあります。ただ、意図のない社会貢献は好きではないので、目的を持ちながら皆がハッピーになれるような社会貢献をしていきたいと思います。
例えば、今度小学生を集めてフットボールイベントを開催するのですが、最近中々靴やボールが買えないという子が多いのが現実です。今回そのような子どもたちが集まるかは分からないですが、小学生向けにシューズを貸し出してイベントを開催しようということになっています。
これにより運動する機会も増えて、尚且つ今回は塾とタイアップするので勉強も教えてもらえるというシステムになります。
ただゴミを拾うだけではなくて、さまざまなものを巻き込んでやっていきたいと思います。
イベント応募はこちら
━━━スポンサーになるとこのようなイベントを開催できたりするのですか?
山地:
スポンサーには色々な種類があるのですが、まず幸いなことにこのカテゴリーの中では突出した露出力がOsakaCitySCにあります。
僕たちは色々な都道府県から選手や大学生を獲得するので、新卒を上手く採用できていないといったリクルーティングで困っている企業様に対して、彼らをそれらの企業に紹介することも可能です。
あとはスポンサーになっていただく企業様に目的があれば、その目的に沿ってフットボールイベントを開催することが可能です。
例えば保護者層にアプローチしたい企業様であれば、小学生向けのサッカー大会を開いたりします。そうすればほぼ必ず保護者の方も来られるので、開催する意味が生まれると思います。
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━━━選手の獲得はどのように行っているのですか?
伊藤:
現在、2月中旬から後半にかけて行われるトライアウト募集をサイトやSNSで行っていますので、そこから申し込んでいただく形になります。必ず何人かが合格するというシステムを取っているわけではないですが、そこで決まれば登録が可能になります。
一応今回期間を設けていますが、実は年中トレーニングパートナーの窓口は開いています。そして日本国内だけでなく、海外からも受け付けています。今もオーストラリアとカナダから一人ずつトレーニングパートナー候補と連絡を取り合っています。
あとは、うちを拠点にトレーニングをして、そこから次のステップに移るような選手の力にもなっていきたいと思います。
ただ、登録枠が決まっていたり登録やリーグ等のタイミングがあるので、トレーニングを行った全員が登録できるわけではないですし、ずっとトレーニングができるかどうかもその選手の質によります。
うちのチームに何かポジティブな影響を与えてくれる人であれば、その選手を登録しようと思いますが、そうでなければある程度トレーニングのチャンスを与えても全員が全員うちのチームにずっといられるというわけではありません。
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最後に今後開催されるイベントに関して、子どもたち、障がいがある人たち、日本国籍でない人たちなど幅広い層に少しでもクラブとして場を提供しようと思っています。理想ではこのような参加者にはなるべくお金をかけないようにしたいです。
金銭的に余裕があり、その方たちに合った環境を選ぶ方はそれで構いません。しかし、それとは異なる境遇の方も多く存在します。僕は幸運にも世界中の様々な国でフットボールに触れてきました。だからこそ、一人でも多くの人にフットボールに触れる環境を作りたいです。
そしてOsakaCitySCのイベントに来る人は僕からサッカーを教わって将来プロになりますという人よりかは、「何だか分からないけど楽しそうだったから来た」「それをきっかけに友達ができた」「身体を動かすことが楽しい」といった人たちに楽しんでいただきたいです。
あとはウォーキングフットボールのような、子どもたちだけではなくて年齢が上の人たちも参加できるようなイベントを、大阪府、そして大阪市中央区のために開催していき、それが気づけばファン・サポーターになっているだとか、スポンサーになってクラブの力になってくれるだとか、そのようなクラブになっていけばと思います。
地域貢献から地域共生になる様な活動に、監督としても積極的に参加したいと考えています。
━━━ありがとうございました。