過去6シーズンにおけるクラブのインフラへの純投資額は、12億4400万ユーロ(約1606億5000万円)に迫る。レアル・ベティスやアラベスなどは、持続可能性を目的とした欧州基金の支援を受けて、プロジェクトの再開を計画している。
サッカー界は、世界をより良くするためだけでなく、伝統を重んじ、そして優秀な人材を惹きつけることを目指して環境面を重要視している。サステイナビリティと環境への配慮に注目し、不動産プロジェクトの開発を促進するために公的資金の調達方法を模索しているラ・リーガのクラブは少なくない。練習施設、スタジアム、その他関連施設などが開発の対象となる。2Playbookのマーケットインテリジェンスツール「2Playbook Intelligence」が抽出したデータによると、2019-2020年シーズンではプロサッカーにおける建築物の資産は合計で19億1640万ユーロ(約2474億8000万円)に達したという。
英国など他の市場と比較しても、スペインにはスタジアムや施設を自分たちで所有しているクラブが10数個しかない。ラ・リーガとCVCの合意がどのような影響を与えるのか。CVCは、クラブ資本の成長を大きな課題の一つとしており、全チームが受け取る合計24億3000万ユーロ(約3138億500万円)の融資のうち70%をインフラに投資しなければならなくなる。つまり、1部と2部に所属する42チーム合計17億100万ユーロ(約2196億6000万円)がスタジアムや練習施設、オフィスなどの設立に使われる。例として、SD ポンフェラディーナ(スペイン2部リーグ所属チーム)が新しいソーシャルハウス建設を計画している。
最初に欧州資金調達の意向を表明したのは、レアル・ベティスとデポルティボ・アラベスの2クラブで、後者はオーナーであるBaskonia-Alavés Groupを通じての資金調達となる。レアル・ベティスも計画を進めている。目的は、3,000万ユーロ(約38億7400万円)規模のスポーツ都市を建設することであり、その資金の70%は、欧州連合(EU)の持続可能な建設のためのプログラムを通じて調達される。そして、資本の参入を促進するために持続可能性を促進することを目的としたプラットフォーム「Forever Green」も立ち上げている。アマゾンと国連がスポンサーとなっているこのプロジェクトには、リーガ・エスパニョーラとスペイン政府も参加しており、環境への配慮を共に推進したいと考える企業の誘致を促す。
ベティスの会長アンヘル・ハロ氏によれば、ベティスのプロジェクトは2022年までには始動する予定で、この開発はクラブの将来にとって非常に重要なものになるという。「サッカー界は経済的に乏しい状況にありますが、これは我々が進めなければならないプロジェクトです。これは基本的なことで、我々が立ち向かわなければならない問題であり、ユースアカデミーにも関わることです」とハロ氏はクラブに語った。
新たな練習施設は、最初は5つのピッチ建設から段階的に行われるだろう。これは、天然芝と人工芝の11人制サッカー用ピッチ15面のうちの3分の1にあたる。また、8,000人収容のミニスタジアム、マルチスポーツ施設、パドルコートやテニスコートなども設置される予定だ。ホームスタジアムの改造に関しては、コロナウイルス問題が解決した後の負債の結果待ちとなっている。
コロナウイルス大流行によるこの経済危機は、取締役会において統一感に欠ける結果をもたらした。「新たな上昇経済サイクルが到来するまで時計の針を止める派」と「この危機をチャンスと捉える派」の二つだ。
デポルティボ・アラベスのオーナー企業であるBaskonia-Alavés Groupは「危機をチャンスと捉える派」だ。企業が今年発表した6400万ユーロ(約82億6500万円)のマクロプラン「Innovaraba」を通じて、クラブは950万ユーロ(約12億2700万円)をスポーツ施設の拡張・改善に投資する予定だ。Innovarabaプロジェクトの半分以上は、パンデミック後の経済回復のための欧州基金によってカバーされるだろう。これにホームスタジアムの改装を加えると、資産への投資総額は6100万ユーロ(約78億7700万円)となる。
前出の2クラブの他に資金調達を検討しているクラブはFCバルセロナだ。ジョアン・ラポルタ氏が議長を務める新役員会は、8億ユーロ(約1033億円)の価値を持つ「Espai Barça」プロジェクトをより環境に配慮したものにし、EUからの融資を受けられるようにすることを検討している。選挙期間中、「Espai Barça」の現責任者であるジョルディ・ラウラドー氏は関心を示しており、新しいカンプノウを「責任感を持った投資によるサステイナビリティのリーダーとなる」スタジアムにするというクラブの意向を表していた。
「これにより責任感を持った投資家が集まり、欧州の環境に配慮したファンドや新しい市場へのアクセスが可能になる。新たなスポンサーシップの機会が得られ、クラブのコストが削減され、資産が再評価されるだろう」とラウラドー氏は語る。また、「持続可能性は長期的には利益になる」と主張している。現時点では、2014年に投票が行われた計画を徹底的に見直すためプロジェクトは進んでいない。
観客を収容できないことを逆手にとった新たな挑戦
コロナが収まるの待ちながら様々な計画を立てているクラブが存在する一方で、パンデミック時に発展したクラブもある。スタジアムを一般公開しないという困難な状況を利用して資産拡大計画を加速させたクラブの例として、CA オサスナ、レバンテ UD、レアル・マドリードの3クラブがある。
オサスナとレバンテは、昨シーズン一般公開されていないスタジアムをオープンしたが、新たなニーズに対応しマッチデー以外にも収入を得られるようにした。しかし、その最も良い例がレアル・マドリードである。
サンティアゴ・ベルナベウの再建設費用は5億7500万ユーロ(約742億5400万円)と予想されているが、直近の株主総会でフロレンティーノ・ペレス会長が説明したように、新スタジアムが完成して完全に稼働する2022-2023シーズンの初めには、年間1億5000万ユーロ(約193億7000万円)の追加ビジネスが発生することになる。
まず、スタジアムの反対側に2つ目のオフィシャルショップを開設し、内部を大型ショッピングセンターに変える。世界の新製品が販売される見応えのある場所になるだろう。床面積は合計で31,400平方メートル程。
そのほか、RCセルタ(約58億1100万円)、SDエイバル(約51億6500万円)、セビージャFC(約32億3000万円)、グラナダCF(約25億8300万円)、CDテネリフェ(約14億6000万円)、レアル・バジャドリード(約12億9100万円)、カディスCF(約10億3300万円)、SDウエスカ(約5億1600万円)などのクラブが最近プロジェクトを開始した、もしくは近々開始する。これら十数件のプロジェクトの総支出額は17億ユーロ(約2195億円)を超えている。
ここ数年で12億ユーロ(約1550億円)以上の投資
この株式投資の傾向は、過去10年間に行われてきたインフラへの純投資と一致。過去6シーズンだけで、12億4380万ユーロ(約1606億2200万円)が投資されている。
ラ・リーガは年次報告書の中で、「実際は、運営投資の約半分強が選手(その性質上、活発に動く資産)に、半分弱がインフラ(ほとんど動かない資産)に使われています」と説明している。
しかし、2019-2020シーズンでは、下半期にすでにコロナウイルスが存在していたこともあり、79%が選手たちに、21%がインフラに流れた。パンデミックの発生に伴い、リーガ・エスパニョーラでは、今後のシーズンにおいて、選手への純投資額が久しぶりに減少する可能性があると予測している。一方で、インフラへの継続的な取り組み(パンデミックであるにもかかわらず、枠組みがしっかりしている大規模なもの)によって、相対的な貢献度が高まると考えている。パンデミック前と同様、今シーズンもクラブはホームチームをサポートすることになるが、今度はフィールドの外側、より将来のことを見据えることになりそうだ。もちろん、環境に優しいことは大前提で。