多くの方が職場や学校で、何とか成果をあげようと日々懸命に努力されています。とはいえ、思うように成果があがらない、予定通りに事が運ばない、全然チームがまとまらない、あるいは、ダイエットしているのになかなか痩せない、練習しているのになかなか上達しない、といったことで悩んでいる方も多いと思います。

なぜこういうことが起きるのか。原因はいろいろありますが、その中のひとつに『マネジメント』の問題があげられます。それはフットボールにおいてもいえることで、マネジメントがうまく機能しないために選手やチームのパフォーマンスが上がらない、審判が試合をうまく整えられない、といったことが起きています。

そこで今回は、『審判のマネジメント』についてお話しします。

マネジメントとは


マネジメントの定義はいくつかありますが、ここでは「目的や目標を達成するために様々な策を用いて、メンバーが自発的に判断して動くように管理すること」とします。

「コントロール」との違い


「他者を管理して動かす」
という意味では「コントロール」もありますが、コントロール「相手を一方的に支配したり制御してその人を自分の思い通りに動かしながら管理する」のに対して、マネジメント「相手を尊重してその人が自発的に考えて動くように支援しながら管理する」という点で、両者は大きく異なります。

日常のマネジメントに必要な3つの要素

 

組織/個人の実現したいビジョンや目的が明確になっている

それがメンバーに十分共有されている

それを実現させるマネジメントが行われている


次に、マネジメントに必要なスキルとしては、状況把握力、問題発見力、目標設定力、分析力、判断力、決断力、任務遂行力、進捗管理力、コミュニケーション力、サポート力などがありますが、これらのスキルが高ければマネジメントは機能するのかというとそうとも限りません。なぜなら、マネジメントはあくまで目的やビジョンを実現するための手段でしかないからです。

言い換えれば、マネジメントの成功は、組織/個人の実現したいビジョンや目的が明確になっている、それがメンバーに十分共有されている、それを実現させるマネジメントが行われている、という3つが成立し連動しているかどうかで決まります。

この3つが抑えられていないと、どんなに素晴らしい事業計画を立てても、どれだけマネジメントスキルの高い人がいても、メンバーが何のためにそれをやるのか、何を実現させるのかわからないので、自分の行動に意味を見いだせなかったり、内発的動機が湧かない状態で任務を遂行することになります。その結果、手段が目的化したり、メンバーの生産性が上がらなかったり、チームがまとまらなかったりと、マネジメントが機能しないということが起こります。

そうならないためにも、たとえばダイエットでいえば「絶食でも何でもしてとにかくやせる」と闇雲に行動するのではなく、「自分に自信をもちたいから、半年かけて体脂肪を20%落として筋肉を10%増やす。

そのために、食事内容、回数、タイミング、カロリーを月間で考える。週〇回筋トレと有酸素運動を行う。8時間の睡眠とその質を上げるために〇〇する」というように、目的やゴールを明確にして、それを実現させるための具体的かつ実現可能な行動計画をたて、うまくいかなければあれこれ修正しながら目的が達成できるようにリソースを管理する方が圧倒的にダイエットの成功率は高まります。

マネジメントを成功させる9つのポイント


マネジメントを成功させるポイントは、次の9つです。

目的やビジョンを明確にする

目的やビジョンを共有する

現状を正確に把握・分析して具体的かつ実現可能な行動計画をたてる

誰が何をいつまでにどうするのか、責任範囲はどこまでなのかを明確にする

進捗状況や関係者の状態を確認するための評価システムを構築する

ミスや問題が起きたときの連絡系統と対処方法を明確にする

目的やビジョンと現状にギャップが生まれないよう進捗状況を監視する

部分的な完璧よりも全体的な最適を優先し不具合が出れば都度修正する

関係者とコミュニケーションをとって安心感と意欲の向上に貢献する

フットボールにおけるマネジメント〜審判の真の役割〜

レフェリー

フットボールの場合、審判が試合をより良いものにしようと選手や監督と試合前に協議してビジョンを明確にしたり、具体的な行動計画をたてることはないので、組織のマネジャーやプロジェクトリーダーが取るようなマネジメントスタイルはとりませんが、共通する所はたくさんあります。

たとえば、マネジャーやプロジェクトリーダーが事業やプロジェクトの全体をマネジメントしたりメンバーをマネジメントするように、審判も試合全体をマネジメントしたり両チームの選手をマネジメントします。そしてそれらを成功させるために自らもマネジメントします。

もちろん前提として、フットボールはあくまで両チームの選手が主体的かつ自発的にフットボールの楽しさや魅力を創造するものですし、チームや選手をどうマネジメントするかはそのチームの監督やキャプテン、チームメイトの責任です。とはいえ、選手の意識が利己や勝利至上主義に傾きすぎると、いろいろと摩擦やトラブルが起きて皆がフットボールを楽しめなくなってしまいます。

フットボールの「競技の精神」は、美しさ、フェアネス、リスペクト、インテグリティ、安全性、参加者の喜び、魅力的で楽しい、といったことを参加者全員に求めています。審判はこれらを実現させるために誕生しました。

ですので、審判の存在意義やビジョンは、このフットボールの「競技の精神」が望んでいる世界を実現させることと言えます。とはいえ、審判だけが努力しても、選手や監督の理解と協力がなければそれを実現させることはできません。そのためにも、審判は試合をコントロールする以上に、選手と試合をマネジメントすることが求められているのです。

審判のマネジメント力に必要な3つの要素

 

複数の視点をもつ

問題解決力を高める

コミュニケーション力を高める


フットボールの「競技の精神」が望む世界を実現させるためには、審判のマネジメント力を高める必要があります。中でも次の3つは、審判のマネジメント力を高める上でとても重要なものです。それは、
複数の視点をもつ、問題解決力を高める、コミュニケーション力を高めるです。

でいえば、視座を高める、立場を変えて物事を見る、時間軸や空間軸を変えて物事を見ることです。あるいは、物事の捉え方や考え方に柔軟性をもたせる、複数の問いを立てて観察する、小さな変化に気づく、違和感を大切にする、といったことです。

でいえば、問題を正しく捉える、論理的思考力を身に着ける、自分の考えを建設的に批判する癖をつける、具体化と抽象化を繰り返す、といったことです。

でいえば、語彙力を高める、質問力を高める、自分の言いたいことをわかりやすく端的に伝える、相手の話を最後までしっかり聴く、非言語でわかりやすく伝える、非言語をできるだけ正確に読み解く、といったことです。

まとめ


いかがでしたか。マネジメントが成功するかどうかは、能力の高さや計画の質以上に、目的やビジョンの明確さとその共有にあります。もし今、マネジメントがうまくいっていないのであれば、目先の悩みを一旦横において、目的やビジョンは明確になっているのか、メンバー間で共有できているのか確認してみて下さい。マネジメントの成功はそこからはじまります。


家本政明

家本政明氏

1973年広島県福山市生まれ。96年に1級審判を全国最年少で取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を担当。05年からプロ審判となり、国際審判にも選出。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。11年に英国初の外国籍審判としてFAカップの試合を担当。21年に勇退。国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多516試合の主審を担当。現在はJリーグフットボール企画戦略部マネージャーとして活動中。同志社大学経済学部卒、グロービス経営大学院卒