先日、サッカーの試合を生放送や過去の名シーンなどを完全無料で視聴できるというOTTプラットフォーム『FIFA+』のサービス開始を発表したFIFA。現在、そのFIFAは、スポンサーに対して現在の取引額から100%〜150%の増額を要求している。
現在、FIFAには合計14のメインパートナーおよびスポンサーが存在する。
「FIFAパートナー」と呼ばれるトップスポンサーは、4年周期でそれぞれ約1億ドルを支払っているのだが、そこにはアディダス、コカ・コーラ、現代(ヒュンダイ)、カタール航空、カタール・エナジー、ビザ、ワンダなどが含まれる。
ワールドカップにおけるスポンサーは、一つ下のレベルのカテゴリーで、バドワイザー、ハイセンス、マクドナルド、ビボ、Cripto.com、蒙牛乳業、BYJU’sなどのブランドが相当しているが、それぞれ、1サイクルあたり約6000万ドルから7000万ドルを支払うと言われている。
さらにその下には、地域パートナー層があり、地域によって異なるが、それぞれ年間約1000万ドルを支払っているという。現在、同プラットフォームでは、FIFAのスポンサーによるスキップ可能な30秒間の広告が掲載されている。
FIFAは、米国、カナダ、メキシコで開催される2026年W杯が、史上最大かつ最も成功したスポーツイベントになることを全面的に期待している。大会規模が32チームから48チームに拡大し、試合数も64から80に増えるため、ブランドにとっての世界的な知名度も向上するからだ。
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2018年ロシア大会では、1分以上生中継を見た人の数は35億7000万人で、世界人口のほぼ半分を占めた。そして、決勝戦は11億2000万人が生中継を視聴したというデータが残っている。大会期間中のFIFA.com公式へのユニークユーザー数は約2億7500万人だった。
スポンサーシップの収入増加は、FIFAの商業部門にとって非常に重要となるもの。2026年のメディア権はほぼすべての地域で販売され、2030年のメディア権もすでに複数の市場で販売されている。
「FIFA+」の現状と課題
現時点では、全サービスを無料で利用できる「FIFA+」。しかし、同プラットフォームのプロジェクトリーダーは将来的に有料コンテンツが追加される可能性を一切否定していない。「現状では、サブスクリプションに関する中期的な計画はありません。ただ、5年、10年、15年などで様々な変化が起こる可能性はあります」と同氏は述べている。
サービス開始時点では、英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語で提供されているが、今年6月には6言語が追加される予定。できるだけ幅広いユーザーに利用してもらえるよう、FIFA+では無料・有料を問わず登録を必要としないことを選択した。
ただ、スポーツ関係の専門コンサルティング会社のD2Cディレクターは、「FIFAのような企業が消費者直結型の活動を行うことは重要です。最終的な目標が何であれ、ファン層と直接的な関係を築くことは、最終的な目標がどうであれ必要不可欠です」と語る。
また、ファンベースを知ることは、直接的にも間接的にも、コンテンツを収益化する最も効果的な方法であると、彼は言う。「例えばプレミアリーグは、6億人以上のファンがいると主張していますが、その人たちの名前や住所などの基本的な情報を活用するのに苦労しています」
続けて「6億人のファンの名前、住所、プロフィールを手に入れることができれば、マネタイズの可能性は大きく広がります。これは、商業パートナー、マーチャンダイジング、チケット販売などに対する価値です」と強調した。
このプラットフォームのコストベースは高い。FIFAが制作しているオリジナルコンテンツは、市場に出回っているスポーツドキュメンタリーと比較しても遜色のないものを目指しており、非常に高いクオリティを誇っている。
その代わり、トップレベルのスポーツドキュメンタリーの制作費は、1000万ドルから2000万ドルにものぼるという。今年は、元ブラジル代表のロナウジーニョの特集を皮切りに、少なくとも6本が予定されている。さらに加えて、何千時間もの短編コンテンツも用意される予定。
FIFAは、このコンテンツをサードパーティのプラットフォームに小売することで、さらなる収益を上げることを目指している。しかし、現状同プラットフォームの収入のほとんどは広告によるもので、同プラットフォームが黒字化すると考える専門家はほとんどいない。
あるスポーツライツの専門家は、スポンサー収入が増えたとしても、このプラットフォームは何年も赤字が続くだろうから、開発プロジェクトと考えるべきだと述べた。しかし、開発プロジェクトといえども、このプラットフォームのコストが制御不能になり、連盟のために使われるはずの財源が確保できない限り意味がないと語る。
同専門家は、国際オリンピック委員会によるオリンピックチャンネルの設立と比較した。このチャンネルは、テレビ放送の確保に苦労している小規模な大会にメディア露出の機会を提供し、24時間365日、年間を通じてスポンサーを獲得するプラットフォームとして、FIFA+と同じ目的で設立された。しかし、このチャンネルの制作費は6億3500万ドルを超え、予算を大幅にオーバーしてしまったという。