ラ・リーガの21-22年シーズンでは、レアル・マドリードが2年ぶり35回目の優勝を決めた。本拠地サンティアゴ・ベルナベウでエスパニョールを4-0で下し、多くのファンの前でトロフィーを掲げることができた。
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ラ・リーガは世界有数のトップリーグ。レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、セビージャ、そしてビジャレアルと欧州の舞台で活躍するクラブが多く属している。
そんなラ・リーガだが、以前は不安定で信頼のできない団体だった。各クラブのトップが集い、周りに知られることのない決断を下すような体質で、周りからは煙たがられていたという。
では、このようなラ・リーガが近年どのようにして経営面を改善させていったのか。今回は、ラ・リーガの歴史と近年の成長についてみていこう。
ラ・リーガの歴史と戦略
1984年に設立されたリーガ・ナシオナル・デ・フトボル・プロフェシオナル、通称「ラ・リーガ」。この団体は、2016年の再ブランディングまで「LFP」という名前で呼ばれていた。
※ラ・リーガは、スペインサッカー連盟(RFEF)傘下の団体(別名:スペインプロリーグ機構)。1部リーグと2部リーグを統括しており、3部以下はRFEFが直接運営する形となっている。
設立当初、LFPは周りから煙たがられていた。というのも、各クラブの会長が集まる会議で、内々の決断が下されることも少なくなかったのだ。さらに、当時は現在のようなSNSの存在がなく、彼らの活動を正確に広める手段がなかった。
そんなLFPに一手を打ったのが、2013年、元弁護士として新会長に就任した現会長のハビエル・テバス氏だ。同氏は、NBAのデビッド・スターンに倣って魅力的なリーグにする戦略を立てた。
ラ・リーガ成長のカギ「放映権収入」
ハビエル・テバス会長が目指しているのは、プレー面のみならず経営面や人気度で世界No1のリーグであるプレミアリーグ。一番大きな要素は「放映権収入」だ。
その部門には、2リーグ間で大きな差があった。正確には”ある”。プレミアリーグの放映権収入が50億ユーロであるのに対し、ラ・リーガは35億ユーロ。15億ユーロの差は日本円にして2000億円以上だ。
このような差が出ているのには明確な理由がある。それは、有料放送への加入者数の差だ。イギリスはスペインよりも2.67倍多くなっている。ちなみにだが、有料サッカーチャンネルの数は両国ともほぼ同数だ。
さらに大きな差が生まれているのは「海外放映権料」。プレミアリーグの約15億ユーロに対し、ラ・リーガはその半分となっている。もちろん、知名度が高ければ高いほど、チャンネル数が多ければ多いほど、視聴者数が多ければ多いほど、海外のスポンサーが増えていく。
しかし、プレミアリーグが常にトップだったわけではない。例えばアリゴ・サッキ監督がACミランを率いていた時代のセリエAは、スター選手が集結していたため、全世界のお手本のような存在だった。
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ラ・リーガのビジネスモデルの歴史
先程述べたようにラ・リーガは、RFEFとの審判に関する調整や日程調整、その他戦略的な問題に対する決断を下すだけで、リーグの日常的な運営に対して目に見える活動はしていなかった。
しかし、この体質は2015年に完全に変化した。2021年には、ハビエル・テバス氏はスポーツ省長官のミゲル・カルデナル氏と協力して、すべてのクラブの放映権を受け取り、ラ・リーガがリーグ単位で世界に販売できるようにするシステムを作ろうとしている。
ラ・リーガが放映権を請け負う前は、各クラブは主に2つの企業(Mediapro社もしくはAudiovisual Sports社)に個別で権利を販売していた。
このように放映権を統括することで、放映的な側面はもちろん、マーケティグ的にも力を入れることができる。ちなみに、集めた収入は全額各クラブに分配される。これこそがプレミアリーグに倣った方法だ。
8年前のラ・リーガは、国内スポンサー企業へのクラブ権利販売で数十万ユーロを得ていただけだったが、それが現在は30億ユーロ以上の収益となっている。
収入構造とサラリーキャップ
ラ・リーガは現在、国内放映権で約10億ユーロ、海外放映権で約7億5000万ユーロを得ている。他には、国内パートナーから5500万ユーロ、海外パートナーから4800万ユーロを手にした。ラ・リーガのグローバルビジネスの評価額は242億5000万ユーロとなっている。CVCはその10%の事業を成長させることを目標に放映権を購入した。
コロナウイルスの影響があったにも関わらず、ラ・リーガは19-20年シーズンを18%増の9200万ユーロ以上のスポンサーシップ収入で締めた。PUMAなどのパートナーが大きな影響を与えたという。
2021年には、約2000万ユーロでサンタンデール銀行との2シーズンのスポンサー契約更新が発表された(3シーズン目のオフション付き)。
ラ・リーガが経済的な利益を求めるだけでなく収入を得るために行うべきことは、自分たちのブランドを確立し、宣伝し、そして国際化するためのグローバルパートナーを探すこと。そしてもう一つは「経済コントロール」という規制の設立だろう。
10年程前は、多くのクラブが選手への支払いや税金の支払い、税務当局への対応ができなかったが、この規制は、クラブの財務を安定させるために制定された。
そこで、2013年以降、ラ・リーガの経済管理部門はアナリストと協力して各クラブの過去の財務状況を検証し、選手の合計年俸の上限を設定している。いわゆるサラリーキャップと呼ばれるものだ。この上限は、新しい移籍市場が開く前には確認された状態になっている。
コストの上限は、トップチームの選手、監督、アシスタントコーチ、理学療法士などに加え、リザーブチーム、アカデミー、その他選手の総額を表している。
UEFAのFFP(ファイナンシャル・フェアプレー)のような対策とは異なり、ラ・リーガと各クラブは支出が実行される前にコスト上限を決定する。これにより、各クラブは簡単に限度額以内で調整することができ、コントロールできない負債の発生を防ぐことができるのだ。
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ラ・リーガのブランディング
2013年にハビエル・テバス氏がラ・リーガ会長に就任した際、スポンサーシップ戦略や国際化戦略、ブランディング戦略といったものが存在しなかった。
その中でも今回注目するのは「ブランディング」。新たなロゴやスローガンを作ることによって、「ラ・リーガブランド」を全世界へと羽ばたかせた。この際、重要だったのは、「フットボール以上に一つのエンターテインメントだ」という内容だ。
ラ・リーガは、過去におけるクリロナやメッシの退団、直近で言えばビジャレアルの快進撃などサッカーの要因のみに左右されないようにすることを一番望んでいた。だからこそ、サッカーファン以外にも訴えかけることで、一ブランドとしての更なる成長を目指すことにしたのだった。
また、SNSなどを用いてラ・リーガの魅力を世界に発信し、Global Web Indexの調査によると、2021年時点で世界のラ・リーガファンは5.87億人に達しているという。
内訳は、アジアが最も多く3.48億人、続いて中南米ファンが1億人となっている。スペインを含むヨーロッパは8400万人のファンを抱えているというデータが出ている。