マンチェスター・ユナイテッド

なぜ困難な状況をマネジメントできる人物がリーダーとしてふさわしいのか?

サッカーでもビジネスでも、カオスな場面は頻繁に起こる。その一例が、英国サッカー界のモデル的なクラブであるマンチェスター・ユナイテッドで起こったことだ。

サッカー界での大きなブランドとして知られる英国のマンチェスター・ユナイテッド。その知名度を中期的に回復させるための取り組みを指揮した監督がいる。彼の名は、2016年にマンチェスター・ユナイテッドに採用されたジョゼ・モウリーニョだ。しかし、選手たちは個人のコンフォートゾーンから一歩も出ようとせず、この不確実な環境の中でパフォーマンスを発揮することができなかった。

結果としてチームのビジョンをマネジメントし、ユナイテッドの選手たちに適応させるために招かれたモウリーニョは、2018年に解任されることとなった。

ジョゼ・モウリーニョは、選手たちに対抗した結果、監督としての支持を失った。彼はチャンスにこだわるのではなく、採点にこだわったのだ。結果として選手を採点するこだわりが、監督としてのマネジメント力を弱めた。すなわち、モウリーニョは、チームメンバー一人ひとりの長所と能力の両方を伸ばすという、マネジメントの戦略的役割を放棄してしまったと言えるだろう。

マンチェスター・ユナイテッドは、アレックス・ファーガソンが26年間にわたり監督とブランドリーダーを務め、スポーツ面でも商業面でも黄金時代を迎えていたのである。長年にわたって成功を収めてきた後、監督の交代に加え、クラブ内のプロジェクト戦略の変更が行われた結果、カオスに陥ったのだ。

マンチェスター・ユナイテッドにおける経営者や戦略の変遷の場合とは逆に、スポーツ組織でも一般企業でも、変革を起こせるチームは、仕事の効率が良いだけでなく、不安定な時期にあっても集中力や俊敏性、前向きさを維持できるスキルとメンタルセルフケアをしっかり保てる人たちで構成されている。

しかし、すべての社員がそのバランスを実現できているわけではないことは、どの組織でもよく知られていること。そして、このスキルの欠如は、モウリーニョがマンチェスター・ユナイテッドにもたらそうとした新しいプロジェクトにマイナスの影響を及ぼした。

モウリーニョという有能なリーダーが成功できなかったワケ

これほど有能なリーダーがなぜ失敗したのだろう。

フィナンシャル・タイムズ紙の『モウリーニョのユナイテッド解任後の経営教訓』では、「ジョゼ・モウリーニョがマンチェスター・ユナイテッドの監督を解任された理由は、彼の気性の荒さや、マンチェスター・ユナイテッドの28年ぶりのシーズン最悪のスタートを受けてスター選手との公然の確執があったと推察できる」と説明されている。モウリーニョの解任は、クラブの株価が5%上昇したことにポジティブに反映された。

ファイナンシャル・タイムズ紙の文脈では、イノベーション・プロジェクトのリーダーとして失敗した監督の解任について、より詳細に述べられている。

「2004年、チェルシーでの初仕事で自らを『スペシャル・ワン』と称し、その後インテルで2010年に「3冠」(欧州チャンピオンズリーグ、セリエA、イタリアカップ)を達成するという不可能を成し遂げた監督は、単にアイデアが尽きたというのが真相だろう。」

リーダーシップの成果を評価する方法

フィナンシャル・タイムズ紙の編集者アンドリュー・ヒルは、「成功するリーダーシップとは、①業績を維持し、②周囲に良いマインドセットを植え付け、③株主やチームメンバーからの信頼を維持し、④組織文化を守る、という4つの条件を常に満たしていることだ」と説明している。

ファイナンシャル・タイムズ紙のサイモン・クパーによれば、モウリーニョは、ペップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ)やユルゲン・クロップ(現リバプール)に追い抜かれた監督像のパイオニアであった。

モウリーニョは監督としての最初の10年間で、2度のチャンピオンズリーグ優勝、4カ国でのリーグ優勝という、サッカー史上ほとんど類を見ない記録を達成した。

「しかし問題は、サッカーの進化が止まらないことです。毎週、チーム同士が学び合い、選手の身体能力を向上させながら、自らを進化させていくのです。例えば、モウリーニョ監督が就任した当時、クラブは選手が酒を飲みすぎることを心配していましたが、今は脱水作用のあるコーヒーの飲みすぎが心配されています。これも時代の変化と言えるでしょう」とクパーは書いている。

さらに、モウリーニョは3億7000万ポンドをあまり良くない選手の獲得に使い、逆に優れた選手と多くの喧嘩をした。例えば、ポール・ポグバには8900万ポンドを支払っていたが、このフランスのスターはモウリーニョ監督時のベンチにいることもあった。

優秀な人材で構成されるチームは、通常、新しい取り組みを開始しても、結果が出るまでに予想以上に時間がかかるもの。そして、個人的なコンフォートゾーンからあまりに長い時間離れていると、優秀な人材のチームは不安定な環境ではパフォーマンスを発揮できなくなるようだ。

革新的な取り組みに着手するチームのための3つの特徴

不透明な状況を快適にする方法

18世紀の詩人ジョン・キーツは、シェイクスピアのような先の見えない混沌とした中で活動できる作家を「ネガティブ・ケイパビリティ」と名付けた。現代的な文脈では、ネガティブ・ケイパビリティとは、そうした不確実性の存在に不安を感じてローリスク・ローリターンをとるのではなく、むしろ不確実性を心地よく受け入れる能力であると考えることができるだろう。

未知の領域での導き方・活躍の仕方

不確実性の牽引役を果たす者とは、プロジェクトにおける不確実性を創造的にリードすることができる人たちのこと。リーダーは、周囲の環境が変化しても、プロジェクトでチームを統率することができる。

カオス時のリーダーは、会社での出世や功績よりも、有意義な変化を生み出すことに関心があることが多い。このような人物像を見つけるのは難しく、観察と実験が必要だ。

発散的思考、収束的思考、影響力のあるコミュニケーション

最後に、従来とは全く異なるチームを作る際に注目すべき特徴を3つ紹介する。

発散的思考:通常は散在している新しい情報、アイデア、概念を独自に関連付ける能力。

収束的思考:その新しいアイデアを具体的な形にするための能力。

コミュニケーション力:一貫性、説得力、影響力のある方法でアイデアを伝えられる能力。この特性は、他のリーダーや決裁者を刺激し、斬新なアイデアや機会を支持させ、行動を起こさせるだろう。

ビジネス・プロジェクトの一つひとつが、転換の可能性を秘めている。成功によりモデルを修正し、会社が生き残るために必要な存在になることができるのだ。型にはまらない企業は、新しいチャンスをつかむことができるだろう。