トレンドの中には中・長期で業界を一気に変革するものもあれば、一時的にしか影響を与えないものもある。コンサルティング会社PwC(プライス・ウォーターハウス・クーパース)は、米国で2022年にスポーツ分野に大きな影響を与えるマクロトレンドに関する年次報告書を発表した。
同社の報告によると、特に、ベッティング(ギャンブル・賭け事)放映権の購入、NFT、メタバースなどの新たなプラットフォームが先導するという。
ギャンブル業界
アメリカでは、ギャンブル自体が一つの産業になっている。Morning Consultによると、2021年だけでも、アメリカ人はスポーツベッティングに527億ドル(約6兆1158億円)を費やしたという。
米国内の各スポーツリーグはすべて大手事業者と独占契約を結んでおり、すでにスマホでのベッティングを認めているニューヨーク州など、今後合法化する州が増えれば、市場はさらに拡大することが予想される。
一方でスペインでは、ラ・リーガ所属クラブのブックメーカーとのスポンサー契約が禁止されたり、また日本ではそもそも賭け事が法律で禁止されていることもあったりと、この分野に関しては国による部分が多い。
放映権購入
一方、放映コンテンツの配信も、トレンド力の高いコンテンツのひとつといえるだろう。米国内の各スポーツリーグは史上最高の回転率でサイクルを確保しており、ラ・リーガやプレミアリーグなどは、これを機に国内での大きな飛躍を遂げた。
「スポーツ事業者は、Espn(ディズニー・メディア・ネットワーク)やNBCに続いて独自のプラットフォームを所有し、ストリーミングにコンテンツを提供する道を歩むでしょう」とPwCは指摘する。NFLとMLBは、それぞれAmazonとAppleを通じて、初めてOTTで独占的に試合を行うことになっている。
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NFTなどのデジタル資産
3つ目のトレンドは、NFTを筆頭にブロックチェーンを利用したデジタル資産だ。ただ、PwCの内部では、これらのデジタル資産によって従来の動画の価値がどれくらいになるのかという疑問が生まれたという。
そして一方で、ブランド、クラブ、リーグの間で統一されないまま増え続けている複数のメタバースにNFTがどのように統合されるかは未知数である。
現在サッカー界には、「sorare」というNFTを取り扱ったプラットフォームがあるが、毎週現実世界での選手の活躍によって、手持ちのカードの価値が変動するというゲームだ。ゲーム内通貨は暗号通貨の「イーサリアム」。
持続可能性
スタジアムなどのスポーツ会場の変化もまた、持続可能なマクロトレンドの一つだ。各クラブは、試合日以外でもスタジアムから収益を生み出せるようにし、観客という受動的な役割から消費者としてより能動的な役割へと移行している。
例えば、ショッピングモールやレストランを設置することによって、試合がない日でも客が能動的に足を運ぶことになるだろう。
実際、レアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウに関しても、予てより365日収益できる構想を立てている。
メタバース
スタジアムでの体験は、もうひとつのトレンドであるメタバースに直結する。仮想現実や拡張現実の体験は、メタバースが統合され「主流」になるにつれて、さらに勢いを増していくだろうと、PwCは説明している。
また、「スポーツでより多くの体験を展開できるようになるのは確かにまだ数年先ですが、Appleはすでに世界最大の拡張現実プラットフォームを持ち、他社もそれを追いかけています」と続けた。
ただ、ファン体験といえば、コンテンツ制作が欠かせない。これは、PwCが特定したもう一つのメガトレンドで、特にZ世代を対象としている。
「従来のライブスポーツやエンターテイメントは、もはや魅力的ではありません。実際この世代はサッカーを90分続けて見ることは少ないです」と説明する。現在のアプローチの方法としては、短い動画や注意を引くコンテンツなどのアクションが定石だ。